トランプ米大統領は21日、米軍制服組トップのブラウン米統合参謀本部議長を解任しました。トランプ氏が1月27日に署名した米軍再編に向けた四つの大統領令との関連が注目されています。大統領令にはDEI(多様性、公平性、包摂性)に関するプログラムの撤廃、トランスジェンダーの兵士の従軍禁止などが含まれています。陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将は「軍隊は社会の縮図であり、軍人自身がこうした問題の当事者でもある」としたうえで、米軍は最高司令官のトランプ氏の指示と米国社会の一般意識との間で、難しい調整を迫られていると指摘します。

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 ――米国は、軍に対する文民統制(シビリアンコントロール)で高い評価を受けてきました。

 米国で政軍関係や文民統制が意識され始めた契機は朝鮮戦争(1950~53年)でした。マッカーサーが中国に対する核使用を主張し、米国内で「軍事が政治に過剰介入するのは問題だ」という危機意識が生まれました。

 代表的な理論が、国際政治学者のサミュエル・ハンチントンが60年代に「軍人と国家」という著作で示した、「軍人は軍事のプロに徹するべきで、政治と一切かかわるべきではない。政治家が戦争を行う是非を決め、遂行段階では軍人に任せて口を出さない」という考え方です。この理論は湾岸戦争(1991年)でうまく機能したと言われました。

 ところが、冷戦後、2000年代になると軍事と政治が融合する分野が大きくなりました。平時と戦時を明確に区別できなくなり、軍は多様な役割を担うようになります。そうなった場合、軍人は微妙な政治的背景を理解したうえで、政治家の決定に従う必要が生まれます。政治家の真意が理解できないと、政軍関係がうまく機能しなくなるからです。

 ――第1期トランプ政権では、当時のミリー統合参謀本部議長が軍幹部らに「トランプ氏が中国への核攻撃を命令しても、まず自分の指示を仰げ」と指示していました。

 ミリー氏はギリギリの判断をしていたと思います。大統領の決定に完全に反対することは当然難しいでしょう。同時に、国際法や国内で起きている議論を巡る常識を考慮することも必要です。明らかに常識から外れる場合は、真意の確認や意見具申をするべきです。ミリー氏や当時のマティス国防長官らは、多くの問題についてトランプ氏に意見具申をしています。

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■「軍は社会の縮図、社会文化…

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